混合ワクチンは、「毎年打つもの」として当たり前のように思われがちですが、本当に大切なのは「なぜ必要なのか」「どんな種類があるのか」を飼い主様ご自身が知ることです。
おおした動物病院では、一律のワクチン接種ではなく、年齢・体調・生活環境・既往歴などを考慮し、その子にとって最適な内容とタイミングをご提案しています。
今回は、混合ワクチンの基本知識から選び方、接種後の注意点についてご紹介します。
混合ワクチンとは?
混合ワクチンとは、ウイルスや細菌による複数の感染症を一度に予防できる注射のことです。「混合」という言葉の通り、1回の接種でいくつかの病気から愛犬・愛猫を守ることができます。
〈犬の混合ワクチンで予防できる主な病気〉
・犬パルボウイルス感染症
激しい下痢や嘔吐を引き起こし、短期間で命に関わることもあるウイルス性の病気。特に子犬は重症化しやすいです。
・犬ジステンパーウイルス感染症
発熱、鼻水、神経症状などが見られる全身性の感染症で、後遺症が残ることもあります。
・犬アデノウイルス(1型・2型)感染症
肝炎や呼吸器症状を起こし、進行が早く危険なケースもあります。
・犬パラインフルエンザ
咳などの呼吸器症状が中心で、ケンネルコフ(犬の風邪)の一因になります。
・犬レプトスピラ症(種類により含まれるワクチンが異なります)
野生動物の尿などを介して感染する細菌性疾患で、腎臓や肝臓に深刻なダメージを与えます。人にも感染する人獣共通感染症です。
〈猫の混合ワクチンで予防できる主な病気〉
・猫ウイルス性鼻気管炎
くしゃみや鼻水、発熱などが主な症状で、慢性化すると生涯にわたって再発を繰り返すことも。
・猫カリシウイルス感染症
口内炎や舌潰瘍を伴う呼吸器感染症で、重症化すると肺炎になることもあります。
・猫汎白血球減少症(猫パルボ)
急激な下痢や嘔吐、白血球の減少を起こし、特に子猫では致死率が高い病気です。
・猫白血病ウイルス感染症(生活環境によって接種)
免疫力の低下や腫瘍の原因となり、一度感染すると慢性的に体調を崩しやすくなります。
これらの病気は、一度かかると命に関わる危険があるものばかりです。ワクチンによる予防は、愛犬・愛猫の健康を守るだけでなく、治療が難しい感染症への対策としても欠かせません。
ワクチンはなぜ必要?
ウイルスや細菌による感染症は、自然に感染すると重症化しやすく、特に子犬・子猫、高齢の子、免疫力が低下している子では、命に関わる深刻な状態に陥ることもあります。一度発症してしまうと、治療が難しかったり、回復に時間がかかったり、後遺症が残るケースも少なくありません。
また、多くの感染症は「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」などによって広がるため、自分の愛犬・愛猫だけでなく、周囲の動物や人にうつしてしまうリスクもあります。
ワクチン接種は、こうした感染のリスクを未然に防ぐ“社会的な予防”としても重要な役割を果たしています。特に、動物病院やペットホテル、トリミングサロンなど、不特定多数の動物が集まる場所を利用する機会がある場合には、ワクチン接種が「利用条件」として求められることも多く、身を守るための大切な備えとなります。
接種スケジュールの基本
ワクチンは、年齢や体の状態に応じて適切なタイミングで接種することが大切です。
〈子犬・子猫の場合〉
ワクチン接種は、生後6〜8週齢ごろから始めるのが一般的です。その後、3〜4週間おきに2〜3回の追加接種を行い、免疫をしっかりと定着させていきます。
この時期に複数回の接種が必要なのは、母犬・母猫から受け継いだ「移行抗体」が体内に残っていることで、ワクチンの効果が十分に発揮されない場合があるためです。複数回接種することで、移行抗体の影響を受けずに確実な免疫を獲得することができます。
その後、生後約1年齢のタイミングで「追加接種(ブースター)」を行い、長期的な免疫を確立します。
〈成犬・成猫の場合〉
1歳以降は、年1回の追加接種が基本となります。ただし、生活スタイルや体調、地域での感染症の発生状況によっては、ワクチンの種類や接種間隔を調整することもあります。
高齢の子や持病のある子は、体への負担を考慮しながら、獣医師と相談しながら無理のないスケジュールを立てましょう。
ワクチンの種類と選び方
混合ワクチンには、大きく分けて「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」の2種類があります。
犬のコアワクチン | ノンコアワクチン |
犬ジステンパーウイルス感染症 | 犬パラインフルエンザ |
犬アデノウイルス(1型・2型)感染症 | 犬コロナウイルス感染症 |
犬パルボウイルス感染症 | 犬レプトスピラ症 |
猫のコアワクチン | ノンコアワクチン |
猫汎白血球減少症 | 猫白血病ウイルス感染症 |
猫カリシウイルス感染症 | 猫クラミジア感染症 |
猫ウイルス性鼻気管炎 | 猫免疫不全ウイルス感染症 |
〈コアワクチン〉
すべての犬や猫に接種が推奨される基本的なワクチンです。感染力が強く、命に関わるリスクが高い病気を予防するために、生活環境にかかわらず必要とされます。
〈ノンコアワクチン〉
その子の生活スタイルや住んでいる地域の感染状況などによって、接種の必要性を個別に判断するワクチンです。
当院では、
・完全室内飼いかどうか
・多頭飼育やドッグラン・ホテルの利用など、他の動物と接触する機会があるか
・年齢や健康状態
・周囲での感染症の流行状況
といった複数の要素を総合的に見て、「その子にとって本当に必要なワクチンは何か」を飼い主様と一緒に考えながらご提案しています。
一律のスケジュールではなく、一頭一頭に合わせた最適な予防ができるよう心がけています。
接種時の注意点と副反応について
ワクチンは安全性が高く、重大な副反応が起こることはまれですが、まったくリスクがないわけではありません。接種後に見られる可能性のある反応を、あらかじめ知っておくことが大切です。
たとえば、以下のような反応が出ることがあります。
〈軽度の副反応〉
接種当日〜翌日に、元気がなくなる、食欲が落ちる、注射部位が腫れる・痛がる、微熱が出る場合もあります。一過性で自然に回復することが多いですが、気になる場合はご相談ください。
〈アレルギー反応〉
まれに、接種直後に顔が腫れる、嘔吐する、呼吸が荒くなるといった急性の反応が現れることがあります。特に初めてワクチンを接種する子では、注意深く様子を見るようにしましょう。
こうした副反応が見られた場合は、すぐに動物病院までご連絡ください。
飼い主様ができること・予防のポイント
ワクチン接種をより安全に、確実に行うためには、飼い主様のちょっとした気配りが大きな助けになります。以下の点に注意しましょう。
・接種当日は激しい運動やシャンプーを避け、安静に過ごさせる
・体調の変化に気づいたら、すぐに動物病院へ連絡を
・接種スケジュールを忘れないよう、カレンダーやアプリで記録を管理する
また、体調がすぐれない場合や持病がある場合には、無理に接種をせず、事前にご相談ください。
当院では、その子の健康状態をしっかり確認した上で、適切な時期や内容をご提案いたします。
まとめ
混合ワクチンは、愛犬・愛猫を感染症から守る大切な予防手段です。ただし、「毎年同じものを打てば安心」ではなく、その子の体調や生活環境に合わせた接種が必要です。
当院では、飼い主様の不安や疑問に寄り添いながら、一頭一頭に合った最適なワクチンプランをご提案しています。
「うちの子にはどのワクチンが必要?」「スケジュールがわからなくなってしまった…」
そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。
兵庫県神戸市須磨区の『おおした動物病院』
℡:078-731-0001