「うちの子、前より水を飲む量が増えた気がする」「食べているのに体が痩せてきた」
そんな小さな変化が、実は“犬の糖尿病”のサインかもしれません。
「人がかかる病気」というイメージがある糖尿病ですが、実は犬にも起こることがあります。特に中高齢の犬では発症リスクが高く、見逃すと失明や腎障害など深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
そこで今回は、愛犬の糖尿病について、原因や症状、診断・治療法、日常ケアのポイントまでをわかりやすくご紹介します。
犬の糖尿病とは？
犬の糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの不足、またはインスリンがうまく働かなくなることで血糖値が慢性的に高くなる病気です。
インスリンは、血液中の糖分（ブドウ糖）を細胞に取り込ませる“カギ”のような働きをしています。これが不足したり機能しない状態が続いたりすると、糖がうまく利用できず、体はエネルギー不足に陥ります。その結果、代謝異常が起こり、さまざまな症状としてあらわれるのです。
人と同様に、犬の糖尿病にも「Ⅰ型」「Ⅱ型」と呼ばれる分類があります。
・Ⅰ型（インスリン依存型）：インスリンを作り出す膵臓の細胞が壊れてしまい、体内でほとんどインスリンを作れなくなるタイプ。犬で多く見られるのはこちらで、生涯にわたるインスリン注射が必要になります。
・Ⅱ型（インスリン非依存型）：インスリンは作られているものの、うまく作用しないタイプ。人や猫では比較的多いのですが、犬では稀とされています。
このように、犬の糖尿病はほとんどがⅠ型に分類されるため、早期からのインスリン治療が重要になります。
また、以下のような特徴がある犬では発症が多くみられます。
・中高齢（7歳以上）
・避妊していない雌犬（ホルモンの影響が関係する場合あり）
・肥満傾向がある
・慢性膵炎やステロイド治療の既往がある
糖尿病は進行性の病気で、放置すると白内障や腎不全、肝障害、心臓病などを引き起こすこともあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
飼い主様が気づきやすい糖尿病の症状とは？
犬の糖尿病は、初期症状が比較的わかりやすいため、飼い主様の「気づき」が早期発見のカギとなります。
次のような変化が見られた場合には、早めに動物病院へご相談ください。
・水をたくさん飲むようになった（多飲）
給水ボウルが空になるスピードが早いと感じたら注意。
・おしっこの量や回数が増えた（多尿）
トイレが間に合わなくなる、排尿の失敗が増えることも。
・食欲はあるのに体重が減っている
糖が利用できないため、体が筋肉や脂肪を分解してエネルギーを確保しようとします。
・毛づやが悪くなった、元気がない
全身の代謝異常が進むと、見た目にも影響が出てきます。
・進行すると白内障や後ろ足のふらつきも
血糖値が長期間コントロールされないと、合併症が進行することがあります。
こうした症状は、「年齢のせいかな」「最近暑いからかな」と見過ごされやすいのが実情です。
しかし、糖尿病は早期に治療を始めるほど、合併症のリスクを抑えやすくなる病気です。些細な変化こそ、見逃さずに受診を検討しましょう。
診断の流れ
糖尿病が疑われる場合、以下のような検査を組み合わせて行います。
・血液検査
血糖値を確認し、高血糖状態かどうかを評価します。
また、肝臓や腎臓など、内臓のダメージや脱水の程度もあわせて確認します。
・尿検査
糖が尿に漏れ出していないか（尿糖）を調べ、膀胱炎などの併発がないかもチェックします。
・腹部超音波検査（必要に応じて）
膵臓や肝臓の形状異常、膵炎の有無などを確認します。
糖尿病は単に「血糖値が高い」だけの病気ではなく、全身に影響を及ぼす可能性のある慢性疾患です。
そのため、血糖値の測定だけでなく、複数の検査結果を組み合わせて総合的に状態を評価し、最適な治療方針を立てていくことが大切です。
犬の糖尿病の治療方法
犬の糖尿病において、最も基本となる治療は「インスリン投与」です。
人と同様、毎日決まった時間に皮下に注射する必要があります。
「注射なんて難しそう…」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。最初は病院で練習をしながら、少しずつ慣れていけるよう丁寧にサポートいたします。
実際に、多くの飼い主様がご自宅での投与に無理なく慣れていらっしゃいます。
あわせて重要なのが「食事管理」です。血糖値の急上昇を避けるために、
・低脂肪・高繊維の療法食を選ぶこと
・毎日同じ時間に食事を与えること（インスリンとのタイミングが関係します）
などが基本となります。
また、運動についても注意が必要です。
激しい運動は血糖値が急に下がる原因になることがあるため、軽いお散歩や体を動かす程度の、無理のない運動を続けるようにしましょう。
合併症と注意すべきポイント
糖尿病は、血糖値が高い状態が続くことで、体のさまざまな場所に影響を与えてしまうことがある病気です。
しかし、あらかじめ気をつけておくことで、合併症のリスクを減らすことができます。
特に注意すべき合併症には以下のようなものがあります。
・白内障
目の中の水晶体が白く濁ってしまい、視力が落ちたり、見えにくくなったりします。進行が早い場合は、急に見えなくなってしまうこともあるため、「目の輝きが前と違う」「ぶつかることが増えた」などの変化に気づいたら、早めの受診が大切です。
・腎臓や肝臓への影響
血糖値のコントロールがうまくいかない状態が続くと、腎臓や肝臓に負担がかかることがあります。
はじめのうちは症状が出にくいため、定期的な血液検査などでのチェックがとても重要です。早く見つけてあげることで、体へのダメージを最小限に抑えることができます。
・膵炎・消化器のトラブル
糖尿病の犬は、膵炎や胃腸の不調を起こしやすい傾向があります。
急に食欲が落ちたり、吐く・下痢をするなどの消化器症状があったときは、「糖尿病とは別の不調かな？」と思わず、まずはご相談ください。
・心臓や血管への負担
血糖値の異常は、血管や心臓にも負担をかけることがあります。
見た目ではわかりにくい変化ですが、「最近あまり動きたがらない」「息が荒い」といったサインがあれば注意が必要です。
糖尿病は、うまく管理していけば合併症のリスクを下げることができる病気です。
だからこそ、「病気そのものだけでなく、体全体の健康状態を一緒に見守っていく」という視点がとても大切になります。
飼い主様ができる日常管理のポイント
糖尿病は、日々の生活のなかでの「ちょっとした観察」と「コツコツとした習慣」がとても大切です。
【毎日のポイント】
・インスリン投与を忘れずに
・食事時間と内容を規則正しく保つ
・過度な運動は避けつつ、適度な運動を継続する（散歩、室内遊びなど）
・飲水量・排尿回数・食欲・体重を記録しておく
・低血糖などの緊急時に備えて「砂糖水」などを準備しておく
これらの情報は、再診時の診断や治療調整に大きく役立ちます。
まとめ
犬の糖尿病は、決して珍しい病気ではありません。
しかし、早期発見・正確な診断・適切な治療、そして飼い主様と病院の継続的な協力があれば、発症後も元気に暮らすことが可能です。
「いつもと違うかも？」そんな“飼い主様の気づき”が、愛犬の未来を大きく左右することもあります。
ご不安なことや気になることがあれば、どんな些細なことでもかまいません。どうぞ遠慮なくご相談ください。
兵庫県神戸市須磨区の『おおした動物病院』
℡：078-731-0001