春が近づいて気温が上がると、フィラリア・ノミ・ダニの予防シーズンが始まります。動物病院でも予防薬に関するご相談が増える時期ですが、実は「暖かくなってきてから慌てて予防を始める」のでは少し遅いのです。気温が上がると寄生虫たちは一気に活動を活発化させるため、早めの準備や計画がとても大切になります。
特にフィラリアは蚊が媒介する病気で、一度感染すると命に関わる深刻な症状を引き起こす場合があります。ノミやダニも、皮膚炎や貧血、人にも影響を及ぼす可能性があるため、放っておくと大変危険です。
今回は、ノミ・ダニ・フィラリアがどのような寄生虫なのか、いつから予防を始めてどうやって続けるのが良いのか、そして予防薬を使う際のポイントや副作用について解説します。

ノミ・ダニ・フィラリアの基礎知識
まずは、それぞれの寄生虫が引き起こすリスクを押さえておきましょう。
〈ノミとは〉
ノミは一度寄生すると爆発的に繁殖し、皮膚のかゆみやアレルギー症状を引き起こします。特にノミアレルギー性皮膚炎は一度発症すると長期化しやすく、ノミを媒介とした瓜実条虫の感染リスクも無視できません。
〈ダニとは〉
ダニは咬まれることで皮膚炎を引き起こすだけでなく、バベシア症やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のような重篤な病気を媒介します。バベシア症は赤血球が破壊されるため、貧血や発熱、食欲不振などの症状が現れ、重症化すると命に関わる恐れがあります。
ダニは公園や草むらなど、日常的に散歩する場所にも潜んでいるため、外出が多い犬はもちろん、窓際で日光浴しているだけの猫が被害に遭うケースもあり得ます。
〈フィラリアとは〉
フィラリアは蚊が媒介する寄生虫で、犬の心臓や肺の血管に寄生し、咳や運動不耐性(すぐ疲れてしまう)などの症状を引き起こします。進行すると心不全につながり、命に関わることも少なくありません。
また、猫でも感染例があり、犬ほど寄生虫の数は多くないものの、少数のフィラリアでも重篤な症状が出やすいといわれています。
予防のベストタイミングと年間スケジュール

〈ノミ・ダニ予防〉
できるだけ通年で行うことが理想です。気温が13℃以上になるとノミ・ダニは活動が盛んになりますが、暖房の効いた室内でも繁殖する可能性があるため、寒い季節だからといって安心はできません。近年は気候変動によって真冬でも暖かい日が増え、ノミ・ダニの活動期間も長くなる傾向があります。
〈フィラリア予防〉
「蚊が発生する前に始める」ことが大切です。毎年3〜5月に血液検査を行い、血液検査で異常がなかった場合、フィラリア予防に入ります。
フィラリア予防薬は、蚊を寄せつけない薬ではなく、犬や猫の体に入ってしまったフィラリアの幼虫を一定期間ごとに駆除する仕組みです。そのため、蚊が本格的に出始める前に投薬を開始し、蚊が見られなくなった後も1〜2ヶ月は続けます。
〈予防プランはかかりつけの獣医師と相談しよう〉
地域によってノミ・ダニの活動期間や蚊の発生時期が異なるため、予防の開始時期や終了時期には注意が必要です。例えば、沖縄や九州などの温暖な地域では蚊が冬にも発生することがあり、フィラリア予防を通年で行うケースもあります。一方、寒冷地では蚊の活動期間が短いため、予防期間が異なることがあるため、かかりつけの獣医師と相談しながら予防プランを決めましょう。
予防薬の種類と選び方
ノミ・ダニ・フィラリアの予防に使われる薬にはさまざまな種類があります。大きく分けると、皮膚に滴下するスポット剤(滴下タイプ)と、口から飲む経口薬(飲み薬)の2種類があり、フィラリア用には注射タイプも存在します。
〈予防薬の種類〉
・スポット剤(滴下タイプ)
被毛をかき分けて皮膚に直接垂らすことで成分を染み込ませ、すでに寄生しているノミ・ダニを駆除するだけでなく、寄生自体を防ぐ効果もあります。
・経口薬(飲み薬)
経口薬は体内に成分が吸収されることで、犬や猫を咬んだノミ・ダニを駆除する仕組みです。
・注射タイプ
毎月の投薬が難しい場合は、長期間効果が続く注射タイプのフィラリア予防薬もあります。
〈選び方のポイント〉
愛犬・愛猫の予防薬は、多様な種類があるため、まずはその子の体重や年齢、住環境を考慮することが大切です。特に散歩や屋外での活動が多い子は、幅広い外部寄生虫に対応する製品を検討すると安心です。
なお、ノミ・ダニ・フィラリアの予防を同時に行える「オールインワンタイプ」の薬もありますが、単独投与と効果・作用が異なる場合があるため、使用にあたってはかかりつけの獣医師に相談するのが安心です。
予防薬投与時の注意点と副作用
予防薬を使うときは、必ず正しい方法で投与することが大切です。
・スポット剤なら、直接皮膚に塗布してしばらくは触らない・濡らさない
・経口薬なら、しっかり飲み込んだか確認する(吐き出していないかチェック)
また、薬によっては皮膚の赤みやかゆみ、嘔吐や下痢などの消化器症状が副作用としてまれに起こることがあります。もし、愛犬・愛猫の様子がおかしかったり、明らかに体調を崩したりしたときは、すぐに動物病院へ連絡し、使用を中止するかどうか獣医師の判断を仰ぎましょう。
持病がある子や、妊娠中・授乳中の子に使用できない薬もあるため、初めて使う薬や切り替え時には、かかりつけの獣医師にしっかり相談してから始めるのが安心です。
さらに、用量を間違えてしまうと、中毒を起こす危険性があります。とくに大型犬用の薬を猫に誤って使うなどは絶対に避けてください。同居の犬と猫で薬を共有しないよう、ラベルや使用対象をしっかり確認し、保管場所も分けて管理すると安心です。
継続的な予防の重要性とかかりつけ医との関係
予防薬は、一度使ったら終わりというものではなく、一定期間ごとに定期的に続けることで、ノミ・ダニ・フィラリアから愛犬・愛猫を守ることができます。とくにフィラリア予防薬は、蚊がいなくなったあとも1〜2か月は続けることで、体内に入った幼虫を確実に駆除します。ノミ・ダニの予防も同様で、途中でやめてしまうと、思わぬタイミングで寄生されるリスクが高まってしまいます。
また、定期的に健康診断を受けたり、血液検査でフィラリアの感染を調べたりすることも重要です。早期に発見できれば、治療の選択肢が広がり、愛犬・愛猫の負担も軽減されます。いつでも気軽に相談できるかかりつけの動物病院を持つことで、疑問や不安をすぐに解消できるだけでなく、最適な予防プランを提案してもらえるメリットもあります。
まとめ
愛犬・愛猫をノミ・ダニ・フィラリアから守るには、正しい知識と早めの行動、そして継続的な管理が欠かせません。予防薬にはさまざまな種類があるので、体重や年齢、生活環境などを考慮したうえで最適なものを選び、決められた用量・投与方法をきちんと守りましょう。
もし予防や投薬で気になる点があれば、どうぞお気軽に当院へご相談ください。
兵庫県神戸市須磨区の『おおした動物病院』
℡:078-731-0001