「避妊や去勢って、本当に必要なのかな?」「痛くないの?」そんなふうに、愛犬や愛猫の手術を前に、悩んだり迷ったりする飼い主様は少なくありません。

元気で過ごしているからこそ、わざわざ麻酔をかけて手術を受けさせることに、ためらいや不安を感じるのは当然のことです。

一方で、避妊・去勢手術はただ妊娠を防ぐだけのものではなく、将来起こり得る様々な病気の予防や、暮らしの中で感じるストレスの軽減にもつながる大切な医療のひとつです。

今回は、避妊・去勢手術の具体的なメリットや実施の適切なタイミング、手術当日の流れ、そして術後の過ごし方まで、飼い主様が気になるポイントについてご紹介します。

避妊・去勢って本当に必要?迷う飼い主さんへ

避妊・去勢手術は、望まない妊娠を防ぐだけでなく、命に関わるような病気の予防にもつながります。さらに、マーキングや攻撃性といった問題行動を軽減する効果も期待できます。

とはいえ、手術にはメリットだけでなくリスクやデメリットも存在します。大切なのは、正しい情報を知ったうえで、ご家族皆さんで納得できる選択をすることです。

避妊・去勢手術のメリットとは?

ここでは「健康面」「行動面」「生活面」の3つの視点から、代表的なメリットをご紹介します。

◾️健康面のメリット
避妊・去勢手術のもっとも大きな目的のひとつは、性ホルモンの影響を受ける病気の予防です。これにより、将来的な疾患リスクを減らし、健康寿命を延ばすことが期待できます。

〈メスの場合〉

避妊手術を行うことで、以下のような病気のリスクを大幅に下げることができます

子宮蓄膿症
子宮に膿がたまる感染性の疾患で、発症すると命に関わる危険性があります。高齢になるほど発症率が上がります。

乳腺腫瘍
初回の発情前に避妊手術を行うことで、将来的な発症リスクを大きく減らせることがわかっています。

卵巣嚢腫・卵巣腫瘍
避妊手術によって卵巣を摘出するため、これらの病気の発生自体を防ぐことができます。

〈オスの場合〉

去勢手術によって、次のような病気の予防が期待できます。

精巣腫瘍
精巣を摘出することで、腫瘍の発生そのものを防ぐことができます。

前立腺疾患
去勢により性ホルモンの影響がなくなるため、前立腺肥大や前立腺炎の予防につながります。

肛門周囲腺腫・会陰ヘルニア
性ホルモンに関連して起こるこれらの疾患も、去勢によって発症リスクを下げられます。

これらの病気は高齢期に多く見られ、症状に気づかず進行してしまうことも少なくありません。若く健康なうちに手術を行うことで、将来的な病気のリスクを減らし、より長く健やかに過ごすことができる可能性が高まります。

◾️行動面のメリット
発情に関わるホルモンの影響を受けなくなるため、問題行動の軽減にもつながります。

たとえば、
発情期の鳴き声やソワソワした様子が落ち着く
マーキング(尿をかけて縄張りを主張する行動)が減る
攻撃的な行動や脱走しようとする様子が落ち着く

◾️生活面のメリット
望まない妊娠を防ぐことも、大きなメリットのひとつです。

避妊・去勢していない犬や猫が外に出ると、思いがけない妊娠や交尾によるケガ・感染症のリスクが高まります。手術を受けておくことで、こうした不安が減り、より安心して一緒に暮らすことができます。

また、発情期には夜鳴きや落ち着きのなさ、食欲の変化などが見られることもありますが、手術によってそうした変化が起こりにくくなり、犬や猫にとってもご家族にとっても、穏やかで安定した日々を送りやすくなります

避妊・去勢に適したタイミングとは?

手術に適したタイミングは、一般的に生後6〜10ヶ月頃が目安とされています。しかし、成長のスピードや体格、発情の有無などには個体差があるため、一律には決められません。

早すぎる時期の手術では、麻酔リスクや臓器の発達の未熟さが懸念されます。一方で遅すぎると、すでに性ホルモンの影響を受けているため、生殖器疾患の予防効果が十分に得られない可能性があります。

そのため、かかりつけの獣医師とよく相談し、その子の発育状態や生活環境に合ったベストなタイミングを決めることが大切です。

手術当日の流れと麻酔について

手術当日は、朝に来院していただきます。まず体調を確認し、必要に応じて血液検査やレントゲン検査などの術前検査を行います。これにより、麻酔に耐えられる全身状態かどうかを確認します。

検査に問題がなければ、午前の外来終了後に手術を行います。術後は院内で数時間安静にし、状態に問題がなければ夕方にお迎えが可能です。

また、「全身麻酔が心配です」といったお声もよくいただきます。たしかに麻酔には一定のリスクがありますが、当院では経験豊富な獣医師・スタッフが手術中の心拍・血圧・呼吸などを細かくモニタリングし、安全に管理しています

さらに、術前検査によって体の状態をしっかり把握したうえで、個々の子に合った麻酔の計画を立てています

麻酔や手術に関してご不安なことがあれば、事前にていねいにご説明いたします。安心してご相談ください。

術後のケアと注意点

退院後は、できるだけ静かで安心できる場所で、ゆっくりと安静に過ごさせてあげましょう。ごはんは少量から与え、食欲や体調に変化がないかをよく観察してください。

また、術後しばらくは激しい運動を控えることが大切です。お散歩は排泄程度にとどめ、無理のない範囲で様子を見てあげてください。

傷口を舐めたり引っ掻いたりするのを防ぐために、エリザベスカラーや術後服の着用をおすすめしています。おうちでのケアについても、わからないことがあればいつでもご相談ください。

再診や抜糸の時期については、退院時に獣医師からご説明いたしますが、一般的には手術から7〜10日後が目安です。

よくあるご質問と不安への答え

Q1. 避妊・去勢手術をすると太りやすくなりますか?
性ホルモンによる体内活動がなくなり、代謝がおちるため、太りやすくなる子がいるのは事実です。手術後は食事量の調整や、避妊・去勢後専用のフードに切り替えるなど、体重管理を意識することで予防できます。

Q2. 性格が変わるって本当ですか?
手術によって猫や犬の性格が大きく変わることはほとんどありません。ただし、発情期特有の行動(落ち着きのなさ、過剰な甘えなど)がなくなることで、性格が穏やかになったように感じることはあります。

Q3. 手術を受けさせるのはかわいそうでは?
そのお気持ちはとてもよくわかります。確かに手術には痛みや不安が伴いますが、将来的な病気の予防や生活の質の向上といった大きなメリットがあります。病気になってから手術を行う場合と比べ、若く健康なうちに実施する方がリスクは低く、回復も早いのです。ご不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。

まとめ

避妊・去勢手術は、単なる医療行為ではなく、犬や猫の一生を見据えた大切なケアのひとつです。病気の予防や問題行動の軽減、日々の暮らしやすさの向上など、多くのメリットがあります。

とはいえ、手術に対する不安や迷いは当然のことです。だからこそ、私たちは地域のホームドクターとして、飼い主様の疑問や心配に寄り添いながら、その子にとって最適な選択を一緒に考えていきたいと考えています。気になることがあれば、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。

兵庫県神戸市須磨区の『おおした動物病院』
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