「うちの子、また吐いちゃった…」「最近ちょっと元気がなくて、でもごはんは食べているし様子見でいいかな…」そんなふうに、愛犬のちょっとした不調を“よくあること”としてやり過ごしてしまうこと、ありませんか?

犬の嘔吐や下痢、食欲不振などの消化器症状は、日常的によく見られる症状のひとつです。確かに軽い胃腸炎や食べすぎで一時的に体調を崩すこともありますが、実はその裏に、命に関わる病気が隠れていることもあります。

今回は、犬の消化器症状があらわれるサインと、見逃してはいけない重大な病気、そして適切な対処についてご紹介します。

愛犬によく見られる消化器症状とは?

犬が日常的に見せる消化器症状には、以下のようなものがあります。

嘔吐
下痢
食欲不振
お腹が鳴る
体重減少

軽度で一時的なものであれば心配ないケースもありますが、次のような症状が見られる場合はすぐに動物病院を受診してください。

〈受診の目安になる症状〉

半日以上、嘔吐が止まらない
下痢が1日以上続いている
何度も吐いてぐったりしている
血便や黒っぽい便(消化管出血の可能性)
食欲不振が数日続いている
呼吸が荒くなる、咳をする、運動を嫌がる

これらは消化器症状に見えて、実は循環器や他の臓器に問題がある場合もあります。

消化器症状の原因はさまざま

犬の消化器症状には、以下のようにさまざまな原因があります。

〈一般的な原因〉

・食べすぎや急なフード変更による胃腸の負担
・拾い食いや異物摂取
・細菌やウイルスによる感染性腸炎
・食物アレルギー
・寄生虫(回虫、鉤虫、ジアルジアなど)
・環境の変化によるストレス性胃腸炎

これらは「一次性(消化器そのものが原因)」のトラブルで、症状に応じた内科的治療や食事療法で比較的早く改善することが多いです。

〈見逃されがちな「消化器以外の病気」〉

しかし、見た目は消化器症状でも、実は消化器以外の疾患が原因になっているケースも多く存在します。

腎臓病:尿毒素が血液中に蓄積することで、吐き気や食欲不振を引き起こします。
肝臓病:胆汁の分泌異常や代謝の低下で、食欲低下や嘔吐が見られます。
膵炎:非常に強い腹痛を伴い、嘔吐や食欲不振、元気消失を起こします。
心臓病:血流不全による消化管の機能低下、うっ血、低酸素状態が影響します。

腎臓病がどのように起こり、どんな症状があらわれるのかについてより詳しく知りたい方はこちら

実は心臓病のサインかも?

「心臓が悪いと、お腹の調子も悪くなるの?」と不思議に思われるかもしれません。しかし、心臓とお腹(消化器)は、体の中でしっかりつながっています。

心臓の働きが弱くなると、全身にうまく血液を送れなくなり、胃や腸にも十分な血液や酸素が届きにくくなってしまいます。すると、消化の力が落ちてしまい、食欲がなくなったり、吐いてしまったりすることがあるのです。

また、心臓から送り出されなかった血液が体にたまり、特にお腹の中に「むくみ」のような状態が起きることもあります。これもまた、消化器の調子を悪くする原因になります。

つまり、一見「お腹の不調」に見える症状が、実は「心臓の病気」からきていることもあるのです。

〈特に注意したい犬種・年齢〉

シニア犬(7歳以上)
心疾患の好発犬種(チワワ、ポメラニアン、キャバリアなど)

犬の心臓病によくみられる初期症状や発症リスクの高い犬種についてより詳しく知りたい方はこちら

消化器症状が出たとき、飼い主様ができること

まずは、落ち着いて愛犬の様子をよく観察してください。症状が見られたときに、受診時に役立つ情報を記録しておくことで、スムーズな診断につながります。

〈記録しておきたいこと〉

・嘔吐・下痢の回数、時間、色、内容物(食べ物・血液・泡など)
・食事の量、食欲の有無、食べたもの
・いつから症状があるか、徐々に悪化しているかどうか
・咳や呼吸の変化
・可能であれば動画を撮っておくと診察時にとても参考になります

当院での検査と診断

当院では、飼い主様からの詳細な問診をもとに、次のような検査を段階的に行います。

1.問診・身体検査
聴診・触診・視診を通じて、心臓の雑音や腹部の違和感もチェック

2.血液検査
内臓機能(腎臓・肝臓・膵臓・心臓関連)や炎症、脱水の有無を確認

3.便検査・尿検査
感染症や消化機能の異常がないかを確認

4.画像診断(レントゲン・超音波)
心臓の動きや大きさ、血流状態まで詳しく診る

当院には、腹部だけでなく心臓を詳しく調べるための専用エコー機器を備えています。心臓用のエコー検査(心エコー)では、心臓の動きや大きさ、血液の流れ方などをリアルタイムで確認することができ、愛犬の心臓の状態をより正確に把握することが可能です。

治療方法とアプローチ

原因が明確になったら、それに応じた治療を行います。

〈一次性の胃腸炎や感染症の場合〉

整腸剤、吐き気止め、抗菌薬などの投薬治療
点滴による水分と電解質の補給
食事療法(低脂肪・消化に良いフード)

〈心疾患が関与している場合〉

・利尿剤、血管拡張剤、強心薬などを用いた投薬治療
・病状の進行度に応じたお薬の調整と定期的なモニタリング
・再発予防と生活の質(QOL)向上のための食事指導や運動管理のサポート

予防と日常のケア

愛犬の胃腸トラブルを防ぐためには、日々の食生活や生活環境へのちょっとした配慮が大切です。

〈消化器症状の予防〉

特に気をつけたいのが、次のようなポイントです。

・フードの切り替えはゆっくりと
急にすべてを変えるのではなく、1週間ほどかけて徐々に新しいフードの割合を増やしましょう。急な切り替えは下痢や嘔吐の原因になります。

・拾い食いを防ぐ工夫を
道ばたの腐ったものや異物を口にすると、急性の胃腸炎を引き起こすことがあります。リードを短めに持つ、危ない場所を避けるなどの対策をしましょう。

・定期的なワクチン・寄生虫予防を忘れずに
感染症や寄生虫による下痢・嘔吐の予防には、動物病院での定期的な予防管理が欠かせません。

・ストレスケアも胃腸の健康に影響
引っ越しや来客、大きな音などの環境の変化は、愛犬にとって大きなストレスとなり、胃腸に影響することもあります。安心できる場所を用意し、なるべく生活リズムを整えてあげましょう

〈心臓病の早期発見・予防〉

心臓の病気は、初期のうちは目立った症状が出にくく、「気づいたときにはかなり進行していた」というケースも珍しくありません。だからこそ、症状がなくても定期的な健康診断を受けることが、早期発見・進行予防のカギになります。

健康診断は年に1回を目安に受けていただくのが基本ですが、7歳を過ぎたシニア期以降の犬には、半年に1回の受診をおすすめしています。年齢とともに心臓や他の臓器も変化していくため、こまめなチェックが大切です。

健康診断でわかることについてより詳しく知りたい方はこちら

また、日常の中で見逃したくない心疾患のサインとして、次のような変化が挙げられます。

・咳が増えた
・疲れやすくなった
・呼吸が速くなった、浅くなった
・散歩や階段を嫌がるようになった

こうした症状があらわれたときは、「年齢のせいかな」と済ませず、早めに動物病院にご相談ください。ちょっとした違和感に気づくことが、愛犬の健康を守る第一歩になります。

まとめ

一見、よくあるように思える愛犬の嘔吐や下痢、食欲不振といった症状。でも、その裏に思わぬ病気が隠れていることもあります。

「このくらいなら大丈夫」と様子を見てしまう前に、まずは一度、正確な検査と診断を受けてみてください。

おおした動物病院では、循環器に詳しい獣医師が、表面だけでなく体の内側までしっかり診て、原因を突き止め、最適な治療をご提案します。

愛犬の健康を守るために、些細な変化でもお気軽にご相談ください。

兵庫県神戸市須磨区の『おおした動物病院』
℡:078-731-0001

診療案内はこちらから
24時間WEB予約はこちらから