「健康診断で心雑音があると言われました」「予防接種のときに偶然見つかって…」そんな声を聞くことがあります。突然「心臓に雑音がある」と言われると、多くの飼い主様が驚き、不安を感じられるかと思います。
ですが、心雑音が聞こえたからといって、すぐに深刻な病気が進行しているとは限りません。心雑音にはグレード(段階)があり、定期的な検査と経過観察で健康を維持できるケースも多く存在します。
そこで今回は、「心雑音って何?」「グレードって?」「治療は必要?」といった疑問を解消しつつ、循環器の診療に強みを持つおおした動物病院での対応についてもご紹介します。

心雑音とは?血流の「乱れ」が出すサイン
犬の心臓は、1日に10万回以上も休まず動き続けており、全身に血液を送り届ける重要な役割を担っています。通常、心臓の音は「ドクン、ドクン」と規則的ですが、何らかの理由で血液の流れに乱れが生じると、「シャー」「スー」といった異音=雑音が混じることがあります。これが「心雑音」です。
心雑音は、心臓内部の弁の異常や血管の狭窄、先天的な構造の異常などによって起こります。ただし、すべての心雑音が病気とは限らず、「無害性雑音(機能性雑音)」という健康な子にもみられる雑音も存在します。
そのため、雑音の有無だけではなく、「どのくらいの音か」「症状があるか」などを総合的に評価することが大切です。
犬種や年齢によって違う、心臓病のなりやすさ
心臓病のリスクはすべての犬にありますが、犬種や年齢によって傾向が異なります。
・小型犬(チワワ、ポメラニアン、キャバリアなど)
年齢とともに「僧帽弁閉鎖不全症」が増えてきます。これは心臓の弁の一部がうまく閉じなくなる病気で、血液が逆流し心雑音が生じます。
僧帽弁閉鎖不全症についてより詳しく知りたい方はこちら
・大型犬(ラブラドール、ドーベルマン、グレート・デーンなど)
若齢〜中年以降で「拡張型心筋症」のリスクが上昇します。心筋の力が低下し、心臓がうまく血液を送り出せなくなります。
・子犬の先天性疾患
生まれつき心臓の構造に異常がある場合もあります(動脈管開存症、心室中隔欠損など)。この場合、子犬の段階で強い雑音が聞こえることがあります。
また、犬も人間と同じように加齢とともに臓器の働きが衰えていきます。高齢になるほど心疾患のリスクは高まるため、定期的な健康診断が重要です。
グレード別に見る心雑音の程度と緊急度
心雑音は、音の大きさや聞こえ方に応じて「グレード1〜6」に分類されます。
・グレード1~2(軽度)
ごく小さな雑音で、獣医師でもよく聴診しないと聞き取りにくいレベル。症状がないことがほとんどで、健康診断で偶然見つかるケースが多いです。この段階では、定期的な経過観察と超音波検査で進行の有無を確認します。
・グレード3~4(中等度)
聴診ですぐにわかるはっきりした雑音。咳や呼吸の変化、運動後に疲れやすいなどの症状が出る場合もあります。この段階では心エコー検査を行い、病気の有無や進行状況を詳細に把握します。
・グレード5~6(重度)
胸に手を当てると振動(スリル)が感じられるほど強い雑音。咳、呼吸困難、失神、元気消失など、明らかな症状を伴うケースもあり、緊急性が高い状態です。すぐに精密検査を行い、治療が必要です。
なお、雑音のグレードだけで病気の進行度が決まるわけではなく、「症状があるか」「犬種・年齢」なども総合的に判断していく必要があります。
検査でわかること:心臓の“中”を視る
聴診だけでは雑音の有無しかわかりません。心臓病の種類や進行度を正確に把握するには、以下のような検査が重要です。
・レントゲン検査:心臓の大きさ、肺の状態(うっ血や水が溜まっていないか)を確認。
・超音波検査(心エコー):弁の動きや心臓の筋肉、血液の流れをリアルタイムで確認でき、診断の要です。
超音波検査についてより詳しく知りたい方はこちら
・血液検査・心臓バイオマーカー(NT-proBNPなど):心臓の負担がかかっていないかを数値で確認。
・心電図検査:不整脈の有無や心拍数の異常を確認。
・血圧測定:高血圧が原因で心臓に負担がかかっていないかをチェック。
治療が必要な場合の対応と方針
心臓の病気が確認された場合、多くのケースではまず内科的な治療(投薬)を行います。たとえば僧帽弁閉鎖不全症の場合、血液の逆流を抑えたり、心臓の負担を減らす薬を用います。代表的な薬には以下のようなものがあります。
・血管拡張剤(ACE阻害薬など)
・利尿剤
・強心剤
・抗不整脈薬
これらを組み合わせて症状の進行を抑え、生活の質(QOL)を維持していくことを目指します。
病気の進行や症状の変化に応じて薬の種類や量を調整するため、定期的な検査と診察が欠かせません。また、食事や生活スタイルにも配慮が必要です。
飼い主様ができる日常のケアと注意点
心臓病のある犬にとって、日々の過ごし方は治療と同じくらい大切です。
・過度な運動を控える
元気そうに見えても、心臓に負担をかけるような激しい運動は避けましょう。長時間の散歩、階段の上り下り、ボール遊びなどは心拍数を急激に上げてしまうことがあり、症状の悪化につながる可能性があります。
おすすめは、短時間の散歩を朝晩に分けて行うことです。本人の呼吸や様子を見ながら「ちょっと疲れてきたかな」と感じたら、すぐに休憩させてあげましょう。
・ストレスを減らす
心臓病のある子は、環境の変化や精神的なストレスでも心拍数が上がりやすくなります。引っ越し、家族構成の変化、大きな音(花火・雷)、留守番の時間が長くなるなども、負担になることがあります。
できるだけ生活のリズムを一定に保ち、安心できるお気に入りの場所をつくってあげるなど、穏やかに過ごせるような環境づくりが重要です。
・水分をしっかりとる
心臓の薬(特に利尿剤)を飲んでいる場合、脱水になりやすい傾向があります。新鮮なお水をこまめに用意し、いつでも飲めるようにしておきましょう。
飲水量が少ない子には、ウェットフードの活用や、水を加えた手作りごはん、ぬるま湯でふやかしたドライフードなども工夫のひとつです。
・投薬を忘れず、勝手にやめない
心臓の病気では、症状がなくてもお薬を飲み続けることが治療の基本になります。飲み忘れや、飼い主様の判断で中断することは避けましょう。
「調子が良さそうだからやめてみた」「飲ませ忘れたけど平気そう」…そんな日が続くと、思わぬ再発や悪化につながってしまうことがあります。服薬の記録をカレンダーやスマホで管理するなど、日常的な習慣にしていきましょう。
また、咳が増えた、呼吸が早くなった、食欲が落ちたなどの変化があれば、すぐに動物病院へご相談ください。
まとめ
犬の心雑音は、音の大きさや症状の有無によって対応が変わります。グレードが低くても安心せず、グレードが高くてもすぐに諦める必要はありません。早期に発見し、適切な治療と生活管理を行うことで、愛犬が快適な毎日を送ることは十分に可能です。
おおした動物病院では、心雑音が気になるワンちゃんに対して、循環器診療に強い院長が丁寧な診察と検査を行い、必要な治療とケアをご提案しています。
気になる症状がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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